らくがき5
※映画ネタバレ注意
昨日感想で書いてて勝手に一人で盛り上がった、信吾さんと後藤さんの話。映画の後設定で、同じ職場ということになっています。階級は捏造。矢印はひとつもありません。
拍手とレス不要コメントありがとうございました!!!映画ネタバレを含むので一部文章を反転しております↓
あの話は映画見た勢いで捏造したので読んで下さって、しかもお言葉下さってすごくすごく嬉しいです。丁寧なご感想下さって本当にありがとうございます!ほんと映アンはことあるごとに爆発し続けてて欲しいですよね!
アンクが幸せそうだと私もほんと嬉しくなります。ありがとうメガマックス…。今後も書きたい話がある限りは書き続けていこうと思います。ご感想ありがとうございます!
「犬のしっぽ」というたとえに死ぬほど萌えました…嬉しいとか悲しいとかが腕の動きに出ちゃうアンク…
拍手のみの方も本当に本当にありがとうございます!!嬉しいです。
昨日感想で書いてて勝手に一人で盛り上がった、信吾さんと後藤さんの話。映画の後設定で、同じ職場ということになっています。階級は捏造。矢印はひとつもありません。
拍手とレス不要コメントありがとうございました!!!映画ネタバレを含むので一部文章を反転しております↓
あの話は映画見た勢いで捏造したので読んで下さって、しかもお言葉下さってすごくすごく嬉しいです。丁寧なご感想下さって本当にありがとうございます!ほんと映アンはことあるごとに爆発し続けてて欲しいですよね!
アンクが幸せそうだと私もほんと嬉しくなります。ありがとうメガマックス…。今後も書きたい話がある限りは書き続けていこうと思います。ご感想ありがとうございます!
「犬のしっぽ」というたとえに死ぬほど萌えました…嬉しいとか悲しいとかが腕の動きに出ちゃうアンク…
拍手のみの方も本当に本当にありがとうございます!!嬉しいです。
月がきれいな夜だった。真黄色で、焼きたてのホットケーキみたいな色だ。満月をそんな風に評したのはもちろん後藤ではない。細長い体をできるだけ慎重に支えながら、そっとため息をつく。夜と朝は怖いくらいに冷えるようになり、いつの間にか秋から冬になったことに今さら思い当たった。内臓が震えるくらいに寒い。そういえば二人ともコートを着ていない。
「警視」
「うーん?」
「忘れました、コート。さっきの店に。取りに戻りましょう」
「らいじょうぶらいじょうぶ」
何が大丈夫なのかさっぱり分からない。しかし何となく逆らいがたいものを感じ、「風邪を引きますよ」と言っただけで後藤も戻ろうとはしなかった。酒で感覚が鈍っているとはいえ、寒いには違いない。
「悪いねえ、後藤くん。怪我治ったばっかりなのに」
「いえ。でも比奈ちゃ、いえ、妹さんに怒られますね」
「『ちゃん』でいいよ。比奈は君にもずいぶん世話になったんだから」
「いいえ」
途端に照れる。世話になったのはむしろ自分だ。クスクシエに勤め始めた頃、比奈には店の仕事を教わった。むすっとして感じが悪く、とことん頭の固い後藤にもにこやかに接してくれた。それを言うなら知世子もだし、火野もだ。あからさまにあざ笑ってきたのはアンクくらいなものだ。だがあいつは仕方がない。
「後藤くん」
「はい?」
しゃっくりの混じった素っ頓狂な声で聞こえてきた言葉は耳を疑う程度のものだった。
「もう一軒行こう。もう一軒」
「やめておいた方がいいと思います」
後藤ははっきりとそう言い、肩を支え直した。これだけ泥酔している人間は新橋のガード下くらいでしか見られない。これ以上飲んだら比奈に怒られるなんてものじゃ済まないだろう。
一年近く前、伊達が面白がってアンクに酒を飲ませようとしたことがある。「深く関わりたくないし」なんて普段は言っていたくせに飲んでいるときは忘れるらしく、映司にもアンクにも知世子にも比奈にも後藤にも絡みたい放題だった。しかも次の日はきれいさっぱり忘れている(そういうふりをしているだけかもしれないが)。
というわけなのでアンクに酒を飲ませようなんて馬鹿らしいことを言い出したのは、伊達がクスクシエでさんざん飲んでいるときだった。「グリードも酔っ払うのか興味あるだろー後藤ちゃーん」なんて言って、後藤を悪巧みの仲間に引き入れたのだ。火野もそれを聞かされていたが、あまりいい顔をしなかった。
いたずらの結果、アンクはアルコールの刺激に耐え切れずに火野に付き添われてトイレでげーげー吐いた。さしもの伊達も真っ青になり、即座に酔っ払いから医者モードに戻った。そのときはアンクの使っている泉信吾の体が酒に弱いのではなく、グリードであるアンク自身が酒に耐えられないのだと思っていた。それが違うと知ったのは、警察官として一緒に働き始めてからだ。泉信吾は細胞ひとつひとつがアルコールを拒否しているレベルで酒に弱い。こんなにべろんべろんに酔っ払っているのに、飲んだのはグラス半分程度のビールだけだ。後はひたすら鶏の軟骨揚げを食べていた。
「ホットケーキみたいな月だなあ」
ふらつく足取りで歩いている泉信吾は顔を上げ、真上にある月を見てそう言った。どこか遠い目だった。
「それはいいですが、真上向いてると転びますよ」
「本当に容赦ないねえ、後藤くん」
信吾は唇の端を引き上げて皮肉っぽく笑う。その笑い方は誰かと似ている。
「すみません、警視」
「警視って呼ばなくていいよ。『信吾さん』でいい。何なら『お前』でもいいよ」
「何言ってるんです。上司をそんな風に呼べるわけないでしょう」
「だったら、せめて仕事のときは思い出しちゃだめだぞ」
「何をですか?」
「動物ってズルいよなあ」
目を細めるようにして、信吾は遠くを見る。
「昔、まだ比奈が中学生だった頃、ベランダに緑色のインコが来てたんだ。誰かが飼ってたのが逃げ出して野生化したみたいだった。そいつはただ気まぐれに餌を食べにくるだけだったけど、ある日部屋の中に入って大事な両親の形見をくわえて飛んでいった。だがその次の日もしれっとベランダに現れてね、餌をくれってくちばしで窓を叩くんだ。そうやっていつも心の隙間にすっと入ってくるんだ、彼らは」
「すみません」
「後藤くんが謝ることは何もないよ。ただ、ちょっとさみしいし、怒ってるんだ。何も言わずにインコがベランダに来なくなったことが。気が変わったみたいにふっといなくなったことが。どこかで死んでるのかもしれないし苦しんでるのかもしれないけど、もう俺にはどうしようもないくらい遠いところにいるんだろう」
信吾自身も特に何も言わないが、あのときもアンクは信吾には何も告げずに体から出て行ったのだという。先日映司と比奈の身に起こったことを聞かされたとき、苦笑して「俺には会いにも来なかったじゃないか」と言っていた。
後藤には何ひとつかける言葉がなかった。分かりますよとも言えないし、分かりませんとも言えない。信吾と同じくらいには、後藤も部外者だ。
「本当に、ホットケーキみたいな月だなあ」
「そうですね」
それはアンクが言ったのだ。輝く満月を見るたびに「ホットケーキみたいだ」と心の中でつぶやいていたらしい。後藤はそれを酒の席で偶然聞いた。笑うべきだったのだろうが、笑えなかった。火野より長い時間一緒にいた信吾しか知らないことがまだたくさんある。
「まあ、そんな難しい顔するもんじゃないよ、後藤くん」
「はあ」
信吾は後藤より背が高いから、肩を貸していると背すじが曲がる。信吾はいったん離れ、ふきすさぶ北風の中、大きく伸びをした。その腕の動きとちょっとした表情にアンクを感じる。懐かしいような、悲しいような、憎たらしいような、不思議な気分だ。あのときの火野もこういう気分でいたのだろうか。
「寒いなあ」
「コートを着ていないからですよ」
「そうかあ。どこに忘れてきたのかな」
「さっきの居酒屋です。そう言ったはずですが」
「そうかあ」
とぼけて振り向いた信吾は、もういつもの泉信吾だった。何のかけらも残していなかった。
「戻るのは寒いから、もう一軒行こうか」
「いえ、それはちょっと」
「上司の酒が飲めないかい、警部補くん?」
「……付き合わせていただきます」
信吾は嬉しそうに笑う。その笑顔の中に何かを、あの途轍もなく長く短かった日々を思い出せるものがないことを、後藤は心から願っている。
「警視」
「うーん?」
「忘れました、コート。さっきの店に。取りに戻りましょう」
「らいじょうぶらいじょうぶ」
何が大丈夫なのかさっぱり分からない。しかし何となく逆らいがたいものを感じ、「風邪を引きますよ」と言っただけで後藤も戻ろうとはしなかった。酒で感覚が鈍っているとはいえ、寒いには違いない。
「悪いねえ、後藤くん。怪我治ったばっかりなのに」
「いえ。でも比奈ちゃ、いえ、妹さんに怒られますね」
「『ちゃん』でいいよ。比奈は君にもずいぶん世話になったんだから」
「いいえ」
途端に照れる。世話になったのはむしろ自分だ。クスクシエに勤め始めた頃、比奈には店の仕事を教わった。むすっとして感じが悪く、とことん頭の固い後藤にもにこやかに接してくれた。それを言うなら知世子もだし、火野もだ。あからさまにあざ笑ってきたのはアンクくらいなものだ。だがあいつは仕方がない。
「後藤くん」
「はい?」
しゃっくりの混じった素っ頓狂な声で聞こえてきた言葉は耳を疑う程度のものだった。
「もう一軒行こう。もう一軒」
「やめておいた方がいいと思います」
後藤ははっきりとそう言い、肩を支え直した。これだけ泥酔している人間は新橋のガード下くらいでしか見られない。これ以上飲んだら比奈に怒られるなんてものじゃ済まないだろう。
一年近く前、伊達が面白がってアンクに酒を飲ませようとしたことがある。「深く関わりたくないし」なんて普段は言っていたくせに飲んでいるときは忘れるらしく、映司にもアンクにも知世子にも比奈にも後藤にも絡みたい放題だった。しかも次の日はきれいさっぱり忘れている(そういうふりをしているだけかもしれないが)。
というわけなのでアンクに酒を飲ませようなんて馬鹿らしいことを言い出したのは、伊達がクスクシエでさんざん飲んでいるときだった。「グリードも酔っ払うのか興味あるだろー後藤ちゃーん」なんて言って、後藤を悪巧みの仲間に引き入れたのだ。火野もそれを聞かされていたが、あまりいい顔をしなかった。
いたずらの結果、アンクはアルコールの刺激に耐え切れずに火野に付き添われてトイレでげーげー吐いた。さしもの伊達も真っ青になり、即座に酔っ払いから医者モードに戻った。そのときはアンクの使っている泉信吾の体が酒に弱いのではなく、グリードであるアンク自身が酒に耐えられないのだと思っていた。それが違うと知ったのは、警察官として一緒に働き始めてからだ。泉信吾は細胞ひとつひとつがアルコールを拒否しているレベルで酒に弱い。こんなにべろんべろんに酔っ払っているのに、飲んだのはグラス半分程度のビールだけだ。後はひたすら鶏の軟骨揚げを食べていた。
「ホットケーキみたいな月だなあ」
ふらつく足取りで歩いている泉信吾は顔を上げ、真上にある月を見てそう言った。どこか遠い目だった。
「それはいいですが、真上向いてると転びますよ」
「本当に容赦ないねえ、後藤くん」
信吾は唇の端を引き上げて皮肉っぽく笑う。その笑い方は誰かと似ている。
「すみません、警視」
「警視って呼ばなくていいよ。『信吾さん』でいい。何なら『お前』でもいいよ」
「何言ってるんです。上司をそんな風に呼べるわけないでしょう」
「だったら、せめて仕事のときは思い出しちゃだめだぞ」
「何をですか?」
「動物ってズルいよなあ」
目を細めるようにして、信吾は遠くを見る。
「昔、まだ比奈が中学生だった頃、ベランダに緑色のインコが来てたんだ。誰かが飼ってたのが逃げ出して野生化したみたいだった。そいつはただ気まぐれに餌を食べにくるだけだったけど、ある日部屋の中に入って大事な両親の形見をくわえて飛んでいった。だがその次の日もしれっとベランダに現れてね、餌をくれってくちばしで窓を叩くんだ。そうやっていつも心の隙間にすっと入ってくるんだ、彼らは」
「すみません」
「後藤くんが謝ることは何もないよ。ただ、ちょっとさみしいし、怒ってるんだ。何も言わずにインコがベランダに来なくなったことが。気が変わったみたいにふっといなくなったことが。どこかで死んでるのかもしれないし苦しんでるのかもしれないけど、もう俺にはどうしようもないくらい遠いところにいるんだろう」
信吾自身も特に何も言わないが、あのときもアンクは信吾には何も告げずに体から出て行ったのだという。先日映司と比奈の身に起こったことを聞かされたとき、苦笑して「俺には会いにも来なかったじゃないか」と言っていた。
後藤には何ひとつかける言葉がなかった。分かりますよとも言えないし、分かりませんとも言えない。信吾と同じくらいには、後藤も部外者だ。
「本当に、ホットケーキみたいな月だなあ」
「そうですね」
それはアンクが言ったのだ。輝く満月を見るたびに「ホットケーキみたいだ」と心の中でつぶやいていたらしい。後藤はそれを酒の席で偶然聞いた。笑うべきだったのだろうが、笑えなかった。火野より長い時間一緒にいた信吾しか知らないことがまだたくさんある。
「まあ、そんな難しい顔するもんじゃないよ、後藤くん」
「はあ」
信吾は後藤より背が高いから、肩を貸していると背すじが曲がる。信吾はいったん離れ、ふきすさぶ北風の中、大きく伸びをした。その腕の動きとちょっとした表情にアンクを感じる。懐かしいような、悲しいような、憎たらしいような、不思議な気分だ。あのときの火野もこういう気分でいたのだろうか。
「寒いなあ」
「コートを着ていないからですよ」
「そうかあ。どこに忘れてきたのかな」
「さっきの居酒屋です。そう言ったはずですが」
「そうかあ」
とぼけて振り向いた信吾は、もういつもの泉信吾だった。何のかけらも残していなかった。
「戻るのは寒いから、もう一軒行こうか」
「いえ、それはちょっと」
「上司の酒が飲めないかい、警部補くん?」
「……付き合わせていただきます」
信吾は嬉しそうに笑う。その笑顔の中に何かを、あの途轍もなく長く短かった日々を思い出せるものがないことを、後藤は心から願っている。
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