もしもし、運命の人ですか
作業中にターンAガンダムのサントラを聞く→ディアナの行く末を思い出す→アンクの行く末に思いを馳せる→千年間映司の生まれ変わりを探し続けるアンクが頭に浮かぶ→穂村弘の「運命の人」というエッセイが思い浮かぶ、といった具合に悲しい妄想エンドレスで原稿できなくなったので吐き出しにきました。短すぎる上に悲しい?感じの話なのでご注意下さい。本心ではこうなって欲しくないです…ほんとに…
タイトルはそのまんま、話の流れは若干、って感じで穂村弘の恋愛エッセイから着想を得ています。歌集も詩集もエッセイも面白いのでぜひ…
タイトルはそのまんま、話の流れは若干、って感じで穂村弘の恋愛エッセイから着想を得ています。歌集も詩集もエッセイも面白いのでぜひ…
人造大理石の床を踏みしめながら歩いていると、突如目の前が開けて夜景が広がった。血管のように走る高速道路、夜空の星々のようなビルの明かり、沈み込むようにぼうっと暗い海の姿が、湾曲したガラスを透かして胸を打つ。アンクはそこで立ち止まって海を眺める。昔に比べると狭くなってしまった海、かつてあの海の前に立って、潮風を体全体で感じていた。暑い日も寒い日も、海を渡ってくる風に吹かれているとしょっぱくなりそうだった。おかげで、思い出すアイスの味はほんのり塩味だ。
「海は変わらないなあ」
斜め後ろを歩いていた男が突然そう言った。振り返ると、背が高くて少し疲れた顔立ちの男が立ち止まって同じようなところを見ている。別に知り合いなわけではない。誰だお前、と聞くべきだったのだろうが、アンクは電撃に打たれたようにひとつも筋肉を動かすことができなかった。海は変わらないなあ。その言葉が頭の中にわんわんと鳴り響き、全身を突き上げるような激情が襲ってくる。
「高いところから見るとよく分かりますねえ」
今度ははっきりとアンクに呼びかけてくる。しかしアンクはふたたび振り返って真偽を確かめたい思いに駆られながらも何もできない。「変わっただろ」となんて普通に答えてる場合じゃない。海は変わらないなあ、なんて、他の誰が言えるものか。後ろの男は「お前なのか」と呼びかければ笑って頷きそうな気がする。お前なのか。やっと会えた。
「いやあ変わりませんよ。安心しますね」
二人はしばらく真っ黒な海を見下ろしている。アンクはその間も耳をそばだて、全神経を集中させて後ろの男の気配を感じている。懐かしいような、そうでもないような感じがする。
「海がお好きなんですか?」
男はいかにも「そう」らしく、立ち去る気がないどころかますます親密そうにそう話しかけてくる。アンクは振り向きもせずに頷き、拳を固める。
「今はもう運河みたいな有様ですが昔はもっと広かったんですよね?」
焦れた思いでまたも頷く。早く、早く、確証が欲しい。
「私は漁港の近くの生れなものでして、海を見ると安心するんです。こんな都会にも海がまだ残っているなんて。あなたも海の近くのお生れなんじゃないですか?」
それを聞いて、アンクは目の前の強化ガラスに思い切り頭をぶつけた。馬鹿、と小さくつぶやく。何を期待してるんだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「構うな」
「はあ」
「どっか行け」
「嫌です」
「あ?」
「あの、はっきり言いますと、運命の人かと思ったんですけど」
アンクは地獄のような形相で振り返り、男をまじまじと見る。あいつの面影などどこにもない。呑気そうで馬鹿そうなところだけ何となくかぶる。という程度だ。こんなのどこにでもいる。
「それを探してんだよ」
「はあ?」
「期待させんな」
メダルに分解してガラスをすり抜け、そのまま鳥の姿になり、夜の中をゆっくりすべり下りていく。夜だと言うのに眼下の街にはたくさんの人がいる。たくさんの人が笑っている。あいつと同じような顔をして。
人は何回か生まれ変わるのだという。知世子が生きていた頃にそう言っていた。だったらあいつはどこにいるんだろうと思う。もしそうだったら、アンクが一目見たら分かるはずだ。なのに見つからない。いっそ電話をかけられたらいいのにと思う。「お前なのか」と問うて「ここだよ」と答えてくれればそこに飛んでいける。鳥になっているアンクの擬態を見破り、頭上を見上げて笑って、手を広げて「アンク」と呼んでくれたらいいのにと思う。そのときは笑って、こう言ってやってもいい。お前をやっと見つけた、おれの映司。
「海は変わらないなあ」
斜め後ろを歩いていた男が突然そう言った。振り返ると、背が高くて少し疲れた顔立ちの男が立ち止まって同じようなところを見ている。別に知り合いなわけではない。誰だお前、と聞くべきだったのだろうが、アンクは電撃に打たれたようにひとつも筋肉を動かすことができなかった。海は変わらないなあ。その言葉が頭の中にわんわんと鳴り響き、全身を突き上げるような激情が襲ってくる。
「高いところから見るとよく分かりますねえ」
今度ははっきりとアンクに呼びかけてくる。しかしアンクはふたたび振り返って真偽を確かめたい思いに駆られながらも何もできない。「変わっただろ」となんて普通に答えてる場合じゃない。海は変わらないなあ、なんて、他の誰が言えるものか。後ろの男は「お前なのか」と呼びかければ笑って頷きそうな気がする。お前なのか。やっと会えた。
「いやあ変わりませんよ。安心しますね」
二人はしばらく真っ黒な海を見下ろしている。アンクはその間も耳をそばだて、全神経を集中させて後ろの男の気配を感じている。懐かしいような、そうでもないような感じがする。
「海がお好きなんですか?」
男はいかにも「そう」らしく、立ち去る気がないどころかますます親密そうにそう話しかけてくる。アンクは振り向きもせずに頷き、拳を固める。
「今はもう運河みたいな有様ですが昔はもっと広かったんですよね?」
焦れた思いでまたも頷く。早く、早く、確証が欲しい。
「私は漁港の近くの生れなものでして、海を見ると安心するんです。こんな都会にも海がまだ残っているなんて。あなたも海の近くのお生れなんじゃないですか?」
それを聞いて、アンクは目の前の強化ガラスに思い切り頭をぶつけた。馬鹿、と小さくつぶやく。何を期待してるんだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「構うな」
「はあ」
「どっか行け」
「嫌です」
「あ?」
「あの、はっきり言いますと、運命の人かと思ったんですけど」
アンクは地獄のような形相で振り返り、男をまじまじと見る。あいつの面影などどこにもない。呑気そうで馬鹿そうなところだけ何となくかぶる。という程度だ。こんなのどこにでもいる。
「それを探してんだよ」
「はあ?」
「期待させんな」
メダルに分解してガラスをすり抜け、そのまま鳥の姿になり、夜の中をゆっくりすべり下りていく。夜だと言うのに眼下の街にはたくさんの人がいる。たくさんの人が笑っている。あいつと同じような顔をして。
人は何回か生まれ変わるのだという。知世子が生きていた頃にそう言っていた。だったらあいつはどこにいるんだろうと思う。もしそうだったら、アンクが一目見たら分かるはずだ。なのに見つからない。いっそ電話をかけられたらいいのにと思う。「お前なのか」と問うて「ここだよ」と答えてくれればそこに飛んでいける。鳥になっているアンクの擬態を見破り、頭上を見上げて笑って、手を広げて「アンク」と呼んでくれたらいいのにと思う。そのときは笑って、こう言ってやってもいい。お前をやっと見つけた、おれの映司。
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