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らくがき3

短い話。映アン+比奈ちゃん。最近辛気臭いのばっかりだから明るい話が書きたくなりました。こういうのもそのうちちゃんとまとめなきゃなあ…
 後ろから比奈に羽交い絞めにされ、正面から映司が迫ってくる。逆光で顔が見えないのが恐ろしくて思わず足と尻で後ずさりしようとしたら比奈に「動いちゃだめ」と怒られた。
「おい、お前ら」
「何?」
 比奈は平然としたものだし、映司にいたっては返事もしない。しかもよく見ると手に何か、棒状のものを持っている。
「お前、いったい何する気だ。注射か?」
「注射なんてしないよ。医者でもないのに。お前、あれがよっぽど嫌だったんだな」
 今度は映司が笑い混じりに答えた。「あれ」とは、この体の持ち主が毎年受けているからとかいうあまりに下らない理由で受けさせられたインフルエンザの予防注射のことを指している。いっつも寒いところで寝てるし熱出されたら困るとかなんとか言って、映司までが比奈に協力し、今と同じように羽交い絞めにされながら阿鼻叫喚の中で接種を終えた。眼鏡をかけた医師に「いい大人が注射くらいで怖がって情けない」と呆れられ、腹が立ったので殺そうとしたら比奈に腕を絞め殺されかけた。あれを思い出すと店の中のものをすべて破壊したくなる。
「じゃあ何で、」
 顎で背後の比奈を指す。注射でないのならこうまでがっちり押さえつける必要がどこにある。映司はおかしそうに笑い、手に持っているものをアンクに見せ付けてきた。長さは箸の半分ほど、太さは指くらいだ。いったい何に使うのかさっぱり分からない。
「いっつも痛がってるし血が出てるから、何とかしてやらなきゃって思ってたんだ。場所が場所だけにほっとくとひどいことになるし」
「ちょうどお兄ちゃんがこっそり使って隠してたのが上着の中にあったから。一年くらい使ってないみたいだけど大丈夫かな」
 大丈夫じゃない?といい加減な返事をして映司がアンクの足の間に跪く。顔が近い。近すぎる。
「お、おい、ちょっと待て」
「何だよ?」
「何でお前、比奈の前で、」
 映司は、わけが分からない、という顔をしている。比奈も相変わらず平然としている。そういえば比奈だけでなく、知世子もキッチンの中にいるのだ。
「何言ってんの、お前」
「ふざけんな! やめろ、この馬鹿!」
 手で顎をつかまれ、上を向かされ、ぞわっとした。押さえ付けられているから後ろに下がることもできない。こんな昼間で、店の中で、公衆の面前で(+二人だが)、何をする気だ。人間はただれている。
 きつく目をつぶっていると、唇にぬるりとした固いものが押し当てられ、左右に塗り広げられた。
「はい、できた」
 アンクは目を開けた。比奈も映司も呆気なく手を離し「あーよかった」というような顔をし合っている。
「おい」
「ん?」
「今何した」
「リップクリーム。唇、痛がってたろ。よく血が出てるから塗っといた方がいいかと思ってさ。治りきらないうちは自分で塗れよ」
 手渡された棒状のものは、深い緑色をしていた。
「大丈夫だよ、それお兄ちゃんのだから」
 二人とも靴を履き、フロアに戻っていく。アンクはその場を一歩も動けず、何だかすーすーする唇に恐る恐る指を当てた。すーすーしてぬるぬるする。気持ちが悪い。
 しばらくぼーっとしていたらふきんを片手に戻ってきた映司に、笑いながらささやかれた。
「お前、さっき何想像してたの」
 腹が立ったのでリップクリームを鼻の穴に突っ込んでやると、映司は断末魔じみた叫び声をあげた。お前ら残らず食ってやる、とつぶやくと、アンクはそのまま屋根裏部屋に足を向けた。
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