らくがき
「何してんだ」
頭のむずがゆさに耐えかねて目を開けると、映司が思わず体を離すくらい間近にいて驚いた。映司の大きな手が視界を半分塞いでいる。セックスの間も外さなかった、手首のレザーブレスが頬骨の辺りに当たっていて痛い。
「おい」
「動くなって」
「答えろ。何してんだ」
やたらに真剣な顔の映司は、少し躊躇してから含み笑いをしつつこう答えた。
「三つ編み」
「あ?」
三つ編みが何のことやら分からないアンクは顔を引き、映司の手の動きを確認する。むずがゆいと思ったのは髪を何房かに分けるために髪の間に指を入れられていたからだ。何してんだ、という思いはいっそう強まる。
「ただ髪を編んでるだけだよ」
映司はそれを見透かしたように笑ってそう言う。
「気持ち悪いんだよ、馬鹿が」
「ほんとはさ、比奈ちゃんくらい長くてまっすぐだとやりやすいんだけどね」
「人の話を聞け」
「お前に言われたくないよ」
セックスの後のこいつにしては珍しく、どういうわけだかやたらに上機嫌だ。アンクの(というより泉信吾の)長くもなければまっすぐでもない髪を編むなどという下らないことを嬉々としてやっている。映司には子供っぽいところがある。要するに馬鹿なのだ。しかしアンクはなんでそんなことをやっているのかとは聞かなかった。別に髪を編まれたからって死ぬわけではないし、言うわりには不器用であまり上手く編めていないようだし、そんなものどうせすぐにほどける。アンクは目を閉じ、けだるい中で眠りにつこうとした。
「寝るの」
「悪いか」
「別に? いいよ寝ても」
映司は呆気なく髪の束を放り出し、手ですいて元に戻した。本当に何のためにやっていたのだか分からない。アンクが目を閉じても映司はそのままの態勢で、ベッドに体を沈める気配がない。少し苛々するが映司が何を考えていようとまあ別にどうでもいい。眠りに引き込まれようとする直前、また髪に手が触れた感じがした。今度は何をするでもなく、ただ触っているといった感じだ。そういえばセックスの最中、何かにつけて映司はよく頭に触ってくる。撫でたり軽く叩いたり髪の間に手を入れたりする。他人の髪を触るということにどういう意図があるのかをアンクは知らない。けれど何となく頭があたたかい気がする。映司はアンクが完全に眠りに落ちるまでその謎の動作を続けていた。それはなぜか、裸の体をくっつけ合う行為よりも、よほどあたたかかったような気がした。気のせいかもしれない。
頭のむずがゆさに耐えかねて目を開けると、映司が思わず体を離すくらい間近にいて驚いた。映司の大きな手が視界を半分塞いでいる。セックスの間も外さなかった、手首のレザーブレスが頬骨の辺りに当たっていて痛い。
「おい」
「動くなって」
「答えろ。何してんだ」
やたらに真剣な顔の映司は、少し躊躇してから含み笑いをしつつこう答えた。
「三つ編み」
「あ?」
三つ編みが何のことやら分からないアンクは顔を引き、映司の手の動きを確認する。むずがゆいと思ったのは髪を何房かに分けるために髪の間に指を入れられていたからだ。何してんだ、という思いはいっそう強まる。
「ただ髪を編んでるだけだよ」
映司はそれを見透かしたように笑ってそう言う。
「気持ち悪いんだよ、馬鹿が」
「ほんとはさ、比奈ちゃんくらい長くてまっすぐだとやりやすいんだけどね」
「人の話を聞け」
「お前に言われたくないよ」
セックスの後のこいつにしては珍しく、どういうわけだかやたらに上機嫌だ。アンクの(というより泉信吾の)長くもなければまっすぐでもない髪を編むなどという下らないことを嬉々としてやっている。映司には子供っぽいところがある。要するに馬鹿なのだ。しかしアンクはなんでそんなことをやっているのかとは聞かなかった。別に髪を編まれたからって死ぬわけではないし、言うわりには不器用であまり上手く編めていないようだし、そんなものどうせすぐにほどける。アンクは目を閉じ、けだるい中で眠りにつこうとした。
「寝るの」
「悪いか」
「別に? いいよ寝ても」
映司は呆気なく髪の束を放り出し、手ですいて元に戻した。本当に何のためにやっていたのだか分からない。アンクが目を閉じても映司はそのままの態勢で、ベッドに体を沈める気配がない。少し苛々するが映司が何を考えていようとまあ別にどうでもいい。眠りに引き込まれようとする直前、また髪に手が触れた感じがした。今度は何をするでもなく、ただ触っているといった感じだ。そういえばセックスの最中、何かにつけて映司はよく頭に触ってくる。撫でたり軽く叩いたり髪の間に手を入れたりする。他人の髪を触るということにどういう意図があるのかをアンクは知らない。けれど何となく頭があたたかい気がする。映司はアンクが完全に眠りに落ちるまでその謎の動作を続けていた。それはなぜか、裸の体をくっつけ合う行為よりも、よほどあたたかかったような気がした。気のせいかもしれない。
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