memo

更新記録、感想、萌えつぶやきなど。
感想等はたいがいネタバレしておりますのでご自衛下さい!
<< おへんじ! :: main :: 34話で >>

あのときかもしれない

映司くんのアンクへの親愛の情ってなんかこういうところから来てそうだなと思って書き始めたんですが短すぎるのとぬるすぎると上手く書けなかったのでこっちに…

続きから。
 昔クラスメイトの誰かがインコを飼っていた。確かオカメインコだったと思う。期待したようには上手く話さなかったし動物としてあまりかわいいとは思わなかったが、飼い主であるところのクラスメイトの優しげな目つきがどうにも忘れられなかった。映司にはその目の意味がよく分からないでいる。

 風呂あがりのアイスは格別だ、とアンクが言ったわけではないが、銭湯から帰ってくると大体いつも食っている。一日一本、とうるさく言ってはいるが守る気などもちろんないらしい。十本入りの箱アイスの中身がとんでもない速度で消えていく。
 ベッドの上でコインランドリーから引き上げてきた服を適当にたたんでいると、アンクがアイスを持って部屋に帰ってきた。
「寒いんだから、腹壊すなよ」
「あ?」
 何言ってんだ、と言いたげに眉をひそめ、アンクは面倒くさそうに包装を剥がした。この部屋は寒い。あたたかかったことなど多分ない。すきま風は入り放題だし、暖房器具などない。それでも外に比べればましだ。屋根があり、安心できる自分だけの寝床があり、ものを置いておける場所も、多少ならある。
 たたんだ洗濯物をベッドの下にしまって立ち上がると、ド派手な赤い布が視界によぎった。ものというわけではないが、こいつを目に付く場所に置いておけるのもいい。外にいるときはわりと苦労した。木の上で寝たがるくせに色んな理由(カラスの襲撃等)でよく眠れないらしく当り散らされたりした。少しでも目を離すとアイスを求めてふらふらどこかへ行ってしまうし、風呂に入れるのも着替えさせるのも外だとやはり色々と面倒くさい。
「ほんと、手のかかるインコだよなあ」
「おい、今なんつった」
 別に、と返し、映司は古ぼけた部屋着に着替えて電気を消した。そしてベッドに潜り込んでから気が付いた。
「あ、歯磨き!」
 映司自身はとっくに済ませているのだが、アンクはまだなのだ。しかも寝る前にアイスなんか食っている。虫歯直行コースだ。あわてて明かりをつけると、アンクはこれ見よがしに舌打ちをした。
「めんどくせえんだよ」
「サボってるとアイス食えなくなるぞ」
 これが最強の脅し文句だ。アンクは悪態をつきながらも大人しくついてくる。あんまりにも単純で笑えてくる。いいなあ、となぜだか思う。みんながみんな、こんな風だったらな、と思う。
「何をたくらんでる」
「たくらんでる?」
「にやついてるだろうが」
「たくらんでるわけじゃないよ。面白いから笑ってるだけで」
「何がおかしい?」
 アンクは歯ブラシを握りながら、不機嫌さの中に若干の戸惑いを混ぜたような顔をしてそう聞いた。バカみたいに単純な奴だ。乱暴だし凶悪だし手はかかるし面倒くさいけれど、いや手がかかる分、面倒くさい分、こいつがいてよかったな、と何となく思った。あくまで何となくであって、なんでかは分からない。
「お前には教えない」
「ああ? ふざけてんのか?」
 映司は声をあげて笑い、アンクの金色の頭をわしゃわしゃと撫でた。細くてやわらかい髪がかき回されてもつれる。今のところ存在のすべてを自分に頼りきっている乱暴なインコは、それが他人のものにしろあたたかい体温を持っている。今ならあのクラスメイトの目つきの意味が分かるかなあ、と映司は思った。
comments (0) : - : Edit

Comments

Comment Form